「昔の日本人は今と違う歩き方をしていた」
このことを知ったのは20年ぐらい前だったと思います。
よく行っていた梅田の紀伊國屋書店。
そこで目にとまった本の帯に冒頭の言葉が書いてあり、すぐに購入しました。
甲野善紀さんの著書でした。
本の中には、明治以前の日本人、特に侍の身体技法の素晴らしさが書かれていて、趣味でボクシングをしていた私は読んでしびれました。
明治以前の日本人の歩き方は「ナンバ歩き」と呼ばれていて、同じ側の手と脚を一緒に出していたそうです。
現代の歩き方は、左右逆の手と脚を前に出すことで身体をねじって力を生んでいるのですが、ナンバ歩きは一切ねじらない。
実際にナンバ歩きをしてみると、とても歩きにくい。
おまけに見た目も悪い(笑)
ナンバ歩きに限らず、昔の日本人は「ねじって力をためる」という現代人が当たり前に使っている身体の使い方をしていなかったそうです。
「ねじって力をためる」=「予備動作」
ですから、動きが起こる前触れを相手に悟られ、例えば刀を持った者同士の戦いならすぐに斬られてしまうというわけです。
現代の格闘技では、予備動作のスピードをいかに速くするかや、多種多様なフェイントを織り交ぜて相手を惑わすことに注力しますが、昔の侍の身体技法にはそもそも予備動作が一切ないので、きっと現代の私たちからすると異次元の動きだったと思います。
「昔の侍の身体の使い方って、どんなんだろう?どうやって再現するんだろう?」
本には詳しい身体の使い方などは書かれていなかったので、想像でやってみるしかありません。
「ねじらない、力をためない」を意識して、当時通っていたボクシングジムでシャドーボクシングをしてみますが、当然うまくはいきません。
きっと周りからは、「けったいな動き方してるなぁ」と思われたことでしょう。
数日続けて、これはあかんなぁと気づいて元の動き方に戻しました(笑)
それから何年か後に、古武術の世界では有名な先生の稽古会に2回参加しました。
「私が刀を抜くのを止めてください」
そう言われて、先生が袴にさしている刀の柄と鞘を両手で力一杯押さえました。
「抜けないように力を入れましたか?じゃあ、刀を抜きますね」
先生がそう言った瞬間、刀は何の抵抗もなく「スルスル〜」と鞘から抜けていきました。
「え?力一杯握ってたのに、なんで?」
私の全身は自然に「ヘナヘナヘナ〜」と力が抜け、その場に倒れそうになりました。
参加者同士でペアを組んで横並びに立ち、両者の腕と脚が触れるまでくっつく。
「そこから相手に気づかれないように、相手を崩してください」
Aさんが崩す側で、Bさんが受ける側。
両者の身体が触れている状態なので非常に難易度が高く、Aさんが動きを起こそうとした瞬間に、Bさんにはそれがバレてしまいます。
Aさんがどんなに動きの気配を消そうとしても、Bさんにはすぐわかる。
(興味がある方は、ご家族や友人で試してみてください)
Bさんにバレた瞬間にアウトという稽古なので、結果、素人の参加者同士のペアだと全く何も起こりません。
そこに先生が入ると、Bさんは「ヘナヘナヘナ〜」と一瞬で崩されてしまう。
「ことの起こり」が一切わからない。
そういう稽古がいくつもあり、先生が入ると全員もれなく「ヘナヘナヘナ〜」と崩されました。
まるで手品や魔法のようでした。
おまけに力で崩されていないので、気持ちよく崩されるんです。
現代の達人でこれだけ凄いのだから、昔の侍は更に桁違いの凄さだったことでしょう。
さて、前置きが長くなりました。
本当の「ナンバ歩き」とは、右手と右脚・左手と左脚を一緒に「前に出す」のではなく、前に出す脚と同じ側の「胸郭を上げる」ことだったようです。
なので、手の動きは前後ではなく上下。
右脚を前に出す時は、右手を上(頭の方向)に動かし、同時に左手を下(足の方向)に動かす。
この方法で歩いてみると、今までいかに無駄な力を使って歩いていたのかがよくわかります。
特に階段はわかりやすいですね。
詳しくはこちらの動画をご覧ください。
この歩き方のコツは、両脚のラインで身体に2本の軸をつくること。
そして、歩く脚の動きに合わせて、2本の軸が上下する。
ただ、人前で動画のような腕振りをすると「ギョッ!」とされるので、上着やズボンのポケットに手を入れるながら歩くことをオススメします。
そうすると、誰にもバレずにナンバ歩きができます。
私の体感としては、ナンバ歩きをすると、自然に「前に出す方の脚」と「同じ側の(上がる)胸郭」に意識がいきます。
「脚を前に出すと同時に、同じ側の胸郭が自然に上がる」
これらを意識できれば、普通の歩き方の腕振りをしていてもナンバのように歩くことができます。
(この時の腕振りはお飾りのようなもので、力の発生源にもならないし、何の意味もありません)
興味がある方は、是非お試しください。